機械設計者の皆さん、日々の業務で「もっと効率的に設計できないか」「コストを抑えつつ品質を高めるにはどうすれば良いか」と悩んでいませんか?あなたがこれらの課題に対する普遍的な答えを探しているなら、今回ご紹介する書籍「トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして」は必読の一冊です。
本書は、元トヨタ自動車副社長である大野耐一氏によって著され、世界中の製造業に革命をもたらした「トヨタ生産方式(TPS)」の思想と実践を詳細に解説しています。単なる生産管理の手法としてだけでなく、機械設計者が設計思想を深め、より本質的な価値を生み出すためのヒントが満載です。
このブログ記事では、「トヨタ生産方式」が機械設計者にとってなぜ重要なのか、そして日々の設計業務にどのように活かせるのかを、詳しく解説していきます。
「トヨタ生産方式」とは? なぜ機械設計者も読むべきなのか?
「トヨタ生産方式」と聞くと、「ジャストインタイム(JIT)」や「自働化(にんべんのついたジドウカ)」といったキーワードを思い浮かべる方が多いでしょう。これらは確かにTPSの重要な柱ですが、その根底にあるのは徹底的な「ムダ」の排除と継続的な「カイゼン」の精神です。
機械設計者にとって、「ムダとり」の視点は非常に重要です。なぜなら、設計段階での考慮不足が、後工程である製造、組み立て、さらには顧客の使用段階に至るまで、様々なムダを生み出す原因となり得るからです。
本書を読むことで、機械設計者は以下の視点を得ることができます。
- 7つのムダの徹底排除: 過剰品質、手待ち、運搬、加工そのもの、在庫、動作、不良を作るムダ。これらを設計段階から意識することで、より洗練された設計が可能になります。
- ジャストインタイムの思想: 必要なものを、必要なときに、必要なだけ作る・供給するという考え方。これは、部品選定やモジュール設計、標準化といった機械設計の根幹に関わる重要な概念です。
- 自働化(にんべんのついたジドウカ): 単なる機械化ではなく、「人の知恵を加えた自動化」を指します。異常が発生したら機械が自ら停止し、不良品を後工程に流さない仕組みです。これは、フェールセーフ設計やポカヨケ設計といった、機械設計における安全性・品質向上に直結します。
- カイゼンの精神: 現状に満足せず、常に改善を続ける姿勢。設計レビューの質の向上や、設計プロセスの見直しなど、日々の業務に取り入れるべき考え方です。
機械設計に活かす!「トヨタ生産方式」の具体的なヒント
では、具体的に「トヨタ生産方式」の考え方を機械設計にどう活かせるのでしょうか?いくつかの例を挙げてみましょう。
- 「7つのムダ」を設計図面から排除する
- 過剰品質のムダ: 要求仕様を正しく理解し、必要以上の機能や精度を盛り込んでいないか?
- 加工そのもののムダ: よりシンプルな形状で同じ機能を実現できないか?加工工程を減らせる設計は?
- 不良を作るムダ: 公差設計は適切か?組み立てやすい構造になっているか?ポカヨケを組み込んでいるか?
- 運搬のムダ: 部品の配置やモジュール化によって、組み立て時の部品移動を最小限にできるか?
- 在庫のムダ: 標準部品の採用や部品点数の削減により、部品在庫を圧縮できないか?
- 動作のムダ: 作業者が無理な姿勢で組み立てたり、調整したりする必要がないか?メンテナンス性は考慮されているか?
- 手待ちのムダ: 設計変更が頻発し、後工程を待たせていないか?フロントローディングを意識した設計プロセスの確立。
- 「ジャストインタイム」を部品選定・供給で実現する
- 部品の標準化・共通化: 個別設計部品を減らし、標準部品や共通部品を積極的に採用することで、部品調達リードタイムの短縮とコストダウンを実現します。
- モジュール設計: 機能ごとにユニット化することで、設計変更への柔軟性を高め、必要なユニットを必要なタイミングで組み合わせることを可能にします。
- 「自働化(にんべんのついたジドウカ)」を設計に組み込む
- フェールセーフ設計: 故障や誤操作が発生しても、安全な状態に移行する設計。
- ポカヨケ(誤り防止)設計: そもそも誤った組み立てや操作ができないような形状や仕組みを設計段階で組み込みます。これにより、ヒューマンエラーによる不良発生を防ぎます。
- 異常検知・停止機能: 機械が異常を検知した場合、自動的に停止し、不良品の流出や設備の破損を防ぐ機構を設計に盛り込みます。
- 「カイゼン」の文化を設計プロセスに根付かせる
- 設計レビューの徹底: 多様な視点から設計を評価し、潜在的な問題を早期に発見・解決します。DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)などの手法も有効です。
- 過去の不具合事例の共有と水平展開: 同じ失敗を繰り返さないために、情報を共有し、対策を他の設計にも活かします。
- 継続的な学習とスキルアップ: 新しい技術や知識を積極的に取り入れ、設計スキルを向上させ続けます。
「トヨタ生産方式」を読んだ率直な感想と評価
本書は、決して読みやすい部類の本ではないかもしれません。しかし、何度も読み返すうちに、その言葉の奥深さや、時代を超えて通用する本質的な考え方に気づかされます。
良かった点:
- 現場主義の徹底: 理論だけでなく、実際の工場でどのように知恵を絞り、ムダを排除してきたかが具体的に書かれており、説得力があります。
- 思想・哲学としての深み: 単なるテクニックではなく、仕事に対する姿勢や考え方そのものを問われる内容であり、自己成長にも繋がります。
- 普遍性: 製造業だけでなく、あらゆる業種・職種に応用可能な「ムダとり」と「カイゼン」のヒントが詰まっています。特に機械設計者にとっては、設計思想の根幹を揺るがすほどのインパクトがあります。
少し残念だった点(強いて言えば):
- 初版が古いため事例が現代的ではない部分もある: しかし、その根本的な考え方は現代でも全く色褪せていません。むしろ、現代の複雑な課題に対して、より本質的な解決策を示唆してくれます。
まとめ:なぜ機械設計者は「トヨタ生産方式」を読むべきか
「トヨタ生産方式」は、単なる生産管理の本ではなく、機械設計者にとって「ムダとは何か」「価値とは何か」を根本から問い直すきっかけを与えてくれる一冊です。
- コスト競争力を高めたい
- 品質を本質的に向上させたい
- リードタイムを短縮したい
- より効率的な設計プロセスを構築したい
- 自身の設計思想を深めたい
上記のような課題意識を持つすべての機械設計者、そして製造業に関わるすべての方に、本書を強くおすすめします。
本書から得られる「ムダとりの視点」と「カイゼンの精神」は、あなたの設計スキルを一段階引き上げ、より価値のある製品を生み出すための強力な武器となるでしょう。ぜひ一度手に取り、その深遠な世界に触れてみてください。
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